水草展2024~水草がつなげる世界~国立科学博物館 筑波実験植物園

2024年8/8日(木)~8/18日(日) ※期間中休園なし

※諸事情により、イベント内容が変更または中止になる場合がございます。最新情報はホームページでご確認ください

2024/8/2(金)

水草展のレイアウトができるまで

水草展に関わることになりました國分です。
今回は、水草展の準備について書こうと思います。

ミニ水田に溢れかえる水草の様子

夏ですね‼ 水田にはこのように、様々な水草が溢れかえっています。

…大嘘をつきました。

これは実際の水田ではなく、今回の水草展のために準備した、1平方メートルにも満たないミニ水田です。屋外で3か月かけて養生し、ほとんど思惑通りに仕上がってくれました。展示会場に移され、メタルハライドランプで維持栽培されています。

今回は、水草展の準備に関わるうえで、表にはなかなか見えない準備工程について書いてみようと思います。

1.取材とコンセプト

筑波実験植物園の水草展の魅力は、やはり生きた水草を野生に近い姿でみられることでしょう。昨今様々な水草が激減しており、かつてごく普通と言われたような水草でも見つけることが困難になってしまいました。植生は単調化し、分布が残っているとしても奇跡のように少数の種が僅かに生き残っているだけであることも目立ちます。

そして、さまざまな水草が入り乱れる自然の水景は、もはや記憶の中か、とんでもない秘境のものになってしまいつつあるのです。

それでもかつて訪れたフィールドを思いだし、それでもインプレッションを得られにくい場合や、認識がボケていると感じた際には取材に行きます。

畦畔(けいはん)に生育する植物の写真

この写真は、「よい畔」が何か? と考え、草刈りにより維持されている畔の植生を観察するために筑波山や栃木県の里山を練り歩いたときのものです。
畔の植生は場所により様々でつかみどころがなく、 「よい畔」と自分が感じる場所は特定の“珍しい”種が存在したり優占しているよりも、在来種の多様性が高くさまざまな種が少数ずつ入り乱れている場所なのだと再認識し、これを今回の畦のコンセプトにしました。

2.資材

筑波実験植物園の水草展では、ソイルや大磯砂は一切使われず、黒土や川砂、玉砂利などの園芸資材で展示を構成します。私は屋外栽培ですらソイルを使うことがあるくらいなので、前回水草展に参加したときには大変驚くとともに魅了されました。
もちろん植物園であるため園芸資材が潤沢にあるのは理由の一つではありましょうが、それだけではない魅力があったのです。

自然の水草が、ソイルや粒のそろった大磯砂に生えていることはありません。砂地に生えていることもありますがたいてい、泥か砂泥に生えています。一見したところ砂礫に生えているように見えても、砂礫の間には泥土が詰まっています。
こうした資材はフィルターの目詰まりを起こすなどの問題からアクアリウムでは使われにくく、そのためアクアリウムの水景はどうしても野外からはかけ離れてしまいがちです。

もちろんこうした資材には泥が舞って薄濁りになるなど多くの障害もありますが、ぜひ水草の生育する環境に思いを馳せていただければと思います。

3.レイアウトの設計

さて、上記のような資材を使う前提でレイアウトを設計します。レイアウトは底床以外にも様々な資材が用いられます。たとえばかさ上げ用の土台などは別途設計します。

レイアウトの設計は当てずっぽうでもよいですが、私は事前にこのような図を作りながら考えるようにしています。 まず水草のサイズを意識した図を作り、水槽に配置していきます。(なお、このレイアウトと企画はボツ案で、今回の水草展の内容とは一切関係ありません。)

レイアウト案の時点で、植栽する種も選定しておきます。

水槽レイアウトの設計図

設計においては実際の植物の生え方に従うのは勿論ですが、青白くてシルエットの小さい草を後ろ、暖色でシルエットの大きい草はできれば前に配置すると、一見遠近法のようにみえて水槽が少しだけ広く見えることがあります。

しかし実際にやるときに計画倒れになりがちなので、このように植栽の“模型”を用いて設計しています。

4.植物の生産と調達

植物の生産と調達は頭を悩ませる事案です。
筑波実験植物園ではナガバエビモやコシガヤホシクサといった絶滅の危機にある植物を大量に育てて栽培維持していますが、すべての水草を増やせているわけではありません。

そのため、田土の埋土種子を発芽させたり、田土を用いて育てる他の植物の鉢に生えてしまったものなどをできるだけ用います。

栽培維持の写真

さらに、例年数百株栽培しているものであっても、異常気象により壊滅的に育ちが悪い…ということが今年は多発しました。そうした場合は移植、施肥、差し戻しで残存する株を増幅させる、余剰に採種しておいたタネを蒔きなおすなどの増殖作業を行います。

なお、量産している種類は数を使いやすいですが、そもそもわざわざ殖やしている種は元々数が少なく、ふつうはあまり見られない種である…というジレンマがあり悩まされました。

つくば産のクロホシクサ

写真は私が継代しているつくば産のクロホシクサとつくば産のサワトウガラシで、映っているサワトウガラシはすべて、 他容器で間引いたものを大きくするために挿し木したものです。匍匐する種なら勝手に増えてきて楽ですが、数を使いたい種は間引きと挿し木を繰り返して増殖させます。

つくば産のサワトウガラシ

自宅で育てている植物は夜間に収穫し、朝に会場に持っていきます。昼間は暑いことや、水草は成長が早く気温が上がる昼間に収穫すると、 持ち帰る前に曲がって不自然な形になってしまうためです。ストック時は土に挿して立てておくのは有効です。
ちなみにこれらの水草は翌日のうちに、全て1本ずつ挿し木することになります。毎年いつもやっている間引き&移植と変わりませんが、考えるだけで頭が痛い日常です。

それでもどうにもならない場合に採取を行いますが、できるだけ避けたいところです。個体数が著しく多い種に限り、できる限り個体数に対して少数ずつを分散して採取するように心がけていますが、そのためには労力と時間がかかります。

5.植栽と栽培

いざイメージをつかんでも実際に配置すると違和感があることはしばしばありますし、実際には大きすぎたり小さすぎたりすることがよくあるため現場合わせで調整せざるを得ません。

さらに、栽培の難易度と自生地の多さは関係がなく、普通種の栽培が難しいことはしばしばあります。うまく育たない場合は途中で植栽を変更します。

たとえばコナギやオモダカはどこにでもみられる水田の水草ですが、育てようとすると肥料切れや移植に弱く、虚弱です。 今回もスブタやマルバノサワトウガラシが順調に育つ中、まさかのコナギが全然育たず急遽小さめのミズアオイに切り替える…というアクシデントが発生しました。
ただ、実際の水田でもスブタ類やホシクサ類が多いパターンではコナギが少ない印象があるので、環境を忠実に再現してしまった結果かもしれません。 このように、育成上の面から臨機応変に対応する必要は常に発生します。

6.今回の水草展の(水草マニア目線での)みどころ

水草を知る上でいちばんの近道は、やはり本物を見ることです。今回の水草展では様々な普段みることのできない水草やそれを利用する生き物を間近に、かつ近縁種と比較しながら間近に観察できます。
東京からTXで1時間いくだけで、北は北海道の湖沼から南は沖縄のマングローブまで、全国津々浦々のフィールドを巡ることに相当する体験ができることでしょう。
日本に分布する“珍しい”水草と聞いて思いつくものは、だいたい会場に準備されています。

またもちろんですが、生き物や人間との繋がりという目線から見れば、知識の次元を1つ追加することができ、より水草を知ることにつながるでしょう。

あと1週間を切りました。準備も大詰めで、ここからが正念場です。

最後まで気を引き締めていきます。

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