研究活動

生物の相互関係が創る生物多様性の解明

地球上の生物は単独で存在するのではなく、その多様性が維持され、また生み出される背景には相互の関わり合い(相互関係)が決定的な役割を果たしています。また自然界に網状に広がっている相互関係(共生網)は一夜にして築かれたものではなく、変動する外部環境とも関係しながら長い歴史の中で成立してきたものと言えます。したがって生物の相互関係を理解するためには現世のみならず、地史的な経緯を含めた進化生物学の概念に沿って考察することが必要です。

国立科学博物館では種の多様性及び種間の様々な相互関係からなる多様性の実体と、それが創出される仕組みを明らかにするために、生物多様性を支える相互関係に注目し、群集レベルから分子レベルにわたる幅広い視点でデータを収集し、自然史情報を統合的に解析することを目的としたプロジェクトを推進しています。筑波実験植物園の研究員もこれに参画しています。

スナヅル属種の寄主特異性

植物のなかには他の植物から栄養分をもらって生きる寄生植物がいます。スナヅル属もその一つで、自ら多少の光合成を行うものの、大部分の栄養分を他の植物から得ています。スナヅル属のなかにはスナヅルのように多くの植物に寄生する種とイトスナヅルのようにわずか2種にしか寄生しない種がいます。筑波実験植物園ではこれらのスナヅル属種の寄主特異性をもたらす要因探求に関する研究を行っています。

寄主特異性が高いイトスナヅル イメージ
寄主特異性が高いイトスナヅル

寄主特異性が低いスナヅル イメージ
寄主特異性が低いスナヅル

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植物が生産するフェノール化合物

植物は一度根付くと動物のように自由に移動することができません。そこで植物は、周囲を取りまく環境に適応するため、様々なシステムを発達させてきました。その一つに、体内で生産する化学物質があります。フラボノイドなどのフェノール化合物は、花への送粉者の誘引をはじめ、生体にダメージを与える有害な紫外線、菌による感染、酸化ストレスから身を守る働きなど、植物と無機および有機的な環境との相互作用において重要な成分であると考えられています。現在、様々な植物を利用して、このようなフェノール化合物の研究を進めています。

ふつうに見たアヤメ(左)と紫外線写真で見たアヤメ(右)イメージ
ふつうに見たアヤメ(左)と
紫外線写真で見たアヤメ(右)

寄主特異性が低いスナヅル イメージ
植物の葉に蓄積したフラボノイド

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花の香りの進化が促した植物の多様化

粉を運ぶ動物(送粉者)との関係は花の多様性をもたらし、同時に近縁植物種間で交配を妨げる仕組み(生殖隔離)としても働くため、被子植物が著しい多様化を遂げた主な要因と考えられています。特に近年、匂いを含めた送粉者に対する信号が種分化の引き金として注目されつつあります。しかし、これら「信号を発する仕組み」を支配する遺伝子の正体についてはほとんど分かっていません。そのため、実際にどのような進化の仕組みが働いたかはほとんど分かっていないのです。

筑波実験植物園では、日本列島で劇的な多様化を遂げたユキノシタ科チャルメルソウ節での研究をはじめとして、送粉者への信号の1つである匂いの遺伝子をあらゆる植物から単離し、その機能を解明する研究を行っています。これにより、植物の多様性を生み出してきた原動力としての花の匂いの役割を明らかにできると考えています。

チャルメルソウの花は特別な香りでミカドシギキノコバエを誘う イメージ
チャルメルソウの花は特別な香りで
ミカドシギキノコバエを誘う

コチャルメルソウの花は特別な香りで異なるキノコバエの1種を誘う イメージ
コチャルメルソウの花は特別な香りで
異なるキノコバエの1種を誘う

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