世界の生態区
屋外
常緑広葉樹林区画
葉に光沢がある照葉樹林で、海岸付近のヤブツバキ-スダジイ-タブノキ林や内陸のアラカシ-シラカシ-アカガシ林があります。前者の林床にはホソバカナワラビ、イノデ、マンリョウなど、後者にはアイアスカイノデ、キンラン、ササバギンランなどがみられます。沖縄から東北地方南部まで広がる林です。
スダジイ-タブノキ林と草本層のホソバカナワラビ(8月下旬)
キンラン Cephalanthera falcata(ラン科)
広葉樹と共生するきのこから栄養を奪う植物で、5月頃に開花する
温帯性針葉樹林区画
中間温帯といわれる標高500~1000m に見られるモミやツガ、ヒノキ、スギを主体とする林です。普段は暗い林床ですが、台風などの倒木で部分的に明るくなるとツツジ類などが侵入し多様性が高くなります。湿潤の地域に成立する林で、四国と紀伊半島に自生するコウヤマキは日本固有で1属1種。各種針葉樹コーナーやクマガイソウなどがみられます。
モミ林のギャップにみられる低木層のミツバツツジなど
(8月下旬)
クマガイソウ Cypripedium japonicum(ラン科)は
草姿を鎌倉時代の武士熊谷直実に見立てたもので、
4-5月頃に開花する暖温帯落葉広葉樹林区画
常緑の森林が伐採など人の手が加わったところに良く見られ、萌芽更新が容易で薪炭林として利用され里山の景観を作っています。高木層のエノキ、クヌギ、コナラ、ヤマザクラ、低木層のムラサキシキブ、ガマズミ、リョウブ、草本層のカタクリ、二リンソウなど階層構造が発達し、春は林床が明るく、春植物など特長的な花が見られます。
ヤマザクラの林と低木層のハシバミやムラサキシキブ
(8月下旬)
コナラの風媒花(4月中旬)、
垂れているのは雄花序で大量の花粉を飛ばす。冷温帯落葉広葉樹林区画
中部日本の800~1600mの山地に見られる森林で、ブナ帯と呼ばれます。ブナ、イヌブナ、ミズナラ、カエデ類の落葉樹からなり、林床が明るく低木層のツツジ類や草本層の種類が豊かです。また奥に向かって流れる小川では、レンゲショウマ、シラネアオイなど湿潤で冷涼な環境を好む日本固有の草本類が見られます。
森の母、ブナのトンネル(7月)
ハウチワカエデの紅葉(11月下旬)低木林区画(低地性・高地性)
暖温帯(低地性)から冷温帯(高地性)にかけての林縁や岩場,風衝地などに見られる林で、伐採跡地にもみられます。最終的に安定した林(極相林)では、ブナ科や針葉樹のように風媒花の植物が優占しますが、低木林のような途中相でみられる植物は、虫媒花が目立ちます。
広域分布するコゴメウツギが富士山周辺(フォッサマグナ地域)で変異した種、カナウツギなども見られます。
暖温帯のヤマツツジRhododendron kaempferi(赤)とモチツツジR. macrosepalum(ピンク) ツツジ科 (5月上旬) 蝶媒花
冷温帯のサラサドウダン ツツジ科(5月中旬)
砂礫地植物区画(山地性)
洪水で砂や礫のたまった山地の河原に自生する植物が植栽されています。また園路沿いには小川が流れ、渓流や湧水湿地の植物が観察できます。
砂礫地植物区画(海岸生)
海岸の砂浜に自生し、強い潮風、砂の移動、強い光、波のしぶきなどの厳しい環境条件に耐えて生活する植物が植栽されています。ときどき砂を攪拌して海岸の攪乱環境を再現しています。
YouTube【国立科学博物館公式】 かはくチャンネル
やや安定した河原に群生するカワラサイコ(6月下旬)
砂浜に生育するハマゴウ、ナミキソウ、オオシマハイネズ(8月下旬)山地草原(低地性・高地性)区画
暖温帯(低地性)から冷温帯(高地性)にかけて風衝地、火山荒原、伐採跡地、放牧地に見られます。自然遷移の途中にみられる植生のため、園では遷移を止めるための人為的な除草、草刈を行っています。高地性区画の火山荒原や湿地の植生を作るため50cm掘り下げて十和田石(軽石)を敷き詰め、短時間水が浸るようにしてあり、オキナグサ、サクラソウなど絶滅危惧種も見られます。低地性区画はススキ草原でヤマハギ、キキョウ、オミナエシなど秋の七草も見られます。
秋の七草の1つ、オミナエシ(9月上旬)
火山荒原に見られるヤマドリゼンマイ、シモツケ、キスゲなど(8月上旬)岩礫地植物区画(山地性・海岸性)
海に囲まれ、急峻な山の多い日本列島には、海食崖(海岸性)、渓流沿い、高山の崩壊地や森林限界地(山地性)でみられる岩礫地があり、そこにのみ生育する独特の植物が見られます。植物の根は岩盤に固着して生育し、植物体は小型ながらも花が目立つものが多くみられます。海岸性区画はハマカンゾウ、ハマギクなど秋の花が多く、山地性区画は2月のセツブンソウから、夏にかけてはサンショウバラ、サツキ、ウラジロキンバイなどがみられます。
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海岸性区画のハマカンゾウとオニヤブソテツ(9月上旬)
山地性区画の一部(8月下旬)
高山や渓流などの岩場の植物が見られる
水生植物区画
水生植物は、水質、気候、土壌などの環境の違いによって生育できる種類が異なります。区画を「山間の沢沿い」「山間の湿地」「水田・ため池」「低地の湿地」「高山帯の湿原」に分け、各環境に適応した水生植物が植栽されています。
水生植物区
ミツガシワ(ミツガシワ科)
冷温帯の湿地に生育(5月)
温室
サバンナ温室(アメリカ、アフリカ、オーストラリア区)
乾季、雨季がはっきりし、年間降雨量の少ない地域でくらす植物を植栽しています。 アメリカ区にはサボテンやリュウゼツランのなかま、アフリカ区にはアロエ、バオバブ、トウダイグサ科の多肉植物など、オーストラリア区にはユーカリ、ブラシノキ、ヤマモガシ科などがあり、 水を貯めたり、乾燥に耐えるさまざまな工夫が見られます。このような環境にはソテツ科植物も多く見られます。
アメリカ区のトックリランBeaucarnea recurvata
(リュウゼツラン科)
茎の基部が膨らんで貯水の役目をしています(2月)
アフリカ区のエウフォルビア・エノプラ
(トウダイグサ科)(6月)
サボテン科とよく似た形で、乾燥植生への収斂進化の例
サボテン科とよく似ていますが、トウダイグサ科の植物です。全く異なる植物が似た環境に適応した結果、似た形へと進化することを収斂といいます。
熱帯雨林温室(低地林・山地林)
※「熱帯雨林温室 1階 低地林室」(→紹介ページ)を公開しています。
※過去のショクダイオオコンニャクの開花記録(→コンニャク日記)を公開しています。
アジア、オセアニアの熱帯雨林の植物を展示しています。いつも温度が高い低地林室と、熱帯山地の涼しく湿度の高い環境を再現した山地林室に分かれています。低地林室ではフタバガキ科、クワ科、ヤシ科などの木とともに、さまざまな着生植物、つる植物が見られます。山地林室では,ブナ科、ツバキ科、ツツジ科などの木や、ラン科、シダ植物、さまざまな食虫植物などを展示しています。
琉球列島の石垣島、西表島にしか分布しないヤシの1種
フィリピンの熱帯雨林に生えるつる植物。 青みがかった緑色の花にはコウモリが集まるといわれます(2~4月)水生植物温室(淡水・マングローブ)
水生植物の、様々な水環境への適応が見られます。
熱帯水生植物室:亜熱帯~熱帯の河川、湖沼、湿地に生育する植物がみられます。
マングローブ室:陸域と海域の境界に生育する植物を展示しています。河口付近の汽水域に生育するマングローブ植物と海岸の隆起サンゴ礁の上に生育する植物が見られます。
アクアスロープ:水生植物の様々な受粉のしくみを見ることができます。
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アクアスロープ
熱帯水生植物室 右奥の大きな植物はマダガスカル産 サトイモ科のティフォノドルム(8月)
マングローブ室
東南アジアのマングローブ(オヒルギ、ヤエヤマヒルギなど)と岩場の隆起サンゴ礁植物(モンパノキ、ヤエヤマオオタニワタリなど)
温室周辺
温室周辺
サバンナ温室周辺には、夏乾燥、冬湿潤の地中海性気候に生育する多くのハーブや球根植物などが見られます。熱帯雨林温室周辺には、日本の暖温帯林のルーツとされ熱帯山地雨林植物と関連する中国南部のブナ科、クスノキ科、ツバキ科、ツツジ科植物が植えてあります。
温室外に地中海性気候の植物、南アフリカ産
ネリネ・ボウデニー(ヒガンバナ科)(11月下旬)
温室外植栽の中国南部などに見られる
サルウィンツバキ(ツバキ科)(3月上旬)